飲食店の値上げは失敗しやすい?失敗事例に学ぶ安全な方法とは!
最終更新日:
2024-07-14 18:52:04
飲食店の値上げで失敗した!
値上げが続いている飲食業界ですが、その値上げ本当に必要ですか?
周りが値上げしているから自分の店舗も値上げして大丈夫だろうと軽い気持ちで考えていませんか?
一度離れたお客様が再び戻ってくるには大きな時間がかかります。そのため、値上げはより慎重に考えなければなりません。
消費者の値段感覚
これは2024年のニュース番組の映像ですが、インフレや円安による原価高騰が続く現代であっても、理想的なランチ価格は500~600円であると回答した消費者が最も多かったそうです。この結果は主にサラリーマンを対象としたアンケートですが、いくら原価が高騰していると言っても、値上げしてランチで1000円を超えるような価格になれば客離れを引き起こすリスクは大きいでしょう。
また、平均賃金は
日経新聞によると昨年で2.1%上昇していますが、
消費者物価指数は統計局によると2024年5月で前年比2.8%の上昇と、賃金の伸びに対して物価高騰の方が大きいという結果になっています。
そのため、値上げがなくてもただでさえ外食は経済的に厳しい中で、さらに飲食店が値上げしてしまうと、外食利用をする消費者の数は減少してしまう可能性が高いと考えられます。
そのような背景で、飲食店における値上げが失敗してしまうリスクは非常に高いのです。
安い店に来店客が集中しているという調査
日本フードサービス協会会員社による外食産業市場動向調査(2023)によると、パンデミックによるインフレ、物価高騰が起きる前の2019年と2023年末における外食産業の売上を比較すると、ファストフード店の売上高は120%を超える数値となっており、以前より平たく言えば「繫盛している」と言うことが可能です。
一方、ファミリーレストランでは98.9%、居酒屋では76.8%と、特に居酒屋では大きく売上高が減少していることが分かります。
下のグラフ画像は先述の調査より抜粋したものです。
客単価が上昇しているのは、物価上昇によるものであると考えられます。
つまり、客単価は上昇しているにもかかわらず、ファミリーレストランや居酒屋、喫茶店において売上高が減少しているということは、客数で見ると売上高以上に減少しているということが結論付けられます。
ファストフードの価格帯は
外食チェーン店の価格を比較した記事から分かる通り、安ければ600円~高くても1000円以内には収まる範囲であることが一般的です。
以前であれば、喫茶店やファミリーレストランの価格も1000円前後に収まることが多かった一方で、現在では1200~1500円程度を客単価の目安としている飲食店が増えています。
物価に対する賃金水準が下がっていることから、外食に1200~1500円の消費をする心理的ハードルが上がっているため、より安いイメージの強いファストフード店に客足が集中しているのだと考えられます。
ファストフードチェーンである「マクドナルド」で長期間働いている方にインタビュー調査を行ったところ、以前であれば10代の若者が多かった時間でも、今は30代以上のサラリーマンやファミリー利用が増加しているという意見も得られました。
飲食店における値上げ失敗事例
安さを売りにしていた飲食店が値上げしたケース
もし、あなたの経営する飲食店が「安さ」を売りにしているのであれば、来店客は当然「安いから」お店に来ているということに注意しましょう。特に安さを求めている消費者ほど値上げに敏感であるため、値上げするとしても周囲の値上げ幅よりは低く抑えるべきでしょう。
実際に、安さを売りにしていた定食屋がチェーン店と同じくらいの値段にまで値上げをしたところ一気に客足が遠のいたという事例があります。消費者にとって価格が高いか安いかを決める基準の一つとして「チェーン店の価格」があります。
そのため、もし値上げするとしても安さを売りにしているのであれば、同等の商品がチェーン店の価格より安くなっているか確認しておきましょう。
高単価×低回転も一つの戦略
値上げには失敗がつきものですが、既に客数が多く、利用時間が短かったり、店舗のキャパシティ以上の来店数があり行列ができているような飲食店であれば、値上げにより顧客満足度が改善する可能性があります。
価格を下げることで、客数は増加するのが一般的ですが、店舗座席数には限界があるため回転数には限界があります。一方、急いで食事をしなければならなかったり、満席で居心地が悪いなど顧客体験を損なっている場合があり、値上げをすることで従業員も余裕を持った接客ができたり、提供スピードが向上したりとサービスの質が向上します。
また、客数が減少しても、単価が上がれば利益率も上がる一方、従業員の数は減らせるなど、適切な価格設定は利益の改善に寄与します。
安く保つのが定石
日本の飲食店数は諸外国に比べると非常に多いと言われています。
こちらの記事によると人口1000人あたりの店舗数は東京都で6店舗、一方アメリカのニューヨークやロサンゼルスでは2店舗程度にとどまっており、3倍もの開きがあります。
また、
こちらのデータからは、岡山県のような地方都市であっても人口1000人あたりの店舗数は約4店舗と非常に多いことが分かります。
競合他社が多い業界で生き残るには、安定した高い質のサービスを供給するか、価格を安く保つかという2つの戦略が一般的な経営戦略として挙げられます。
前者は主にチェーン店で、研修制度や自社工場での生産によってどの店舗でも安定した接客、料理を提供することが可能です。さらに規模の経済性から価格も安く保つことができ、多くの小規模な飲食事業者にとってチェーン店以上のサービスを低価格で提供するのは難しいと言えます。
消費者にとって価格は意思決定をするのに非常に重要な要素です。事業者側のセオリーでは原価は売値の30%にすべきと言われていますが、競争の激しい飲食業を営む以上、そのセオリーはもはや時代遅れなのかもしれません。
値上げを考えている飲食事業者は、現在の客数や周辺の価格帯を考慮し、やや安い水準で価格設定することを意識しましょう。
失敗しない値上げのポイント3つ
値上げをする場合に意識するポイントは
link>・桁数を変えない工夫
・百の位の数字を変えない
・税抜金額も表示する
の三つです
桁数を変えない工夫の一例
それまで880円で販売している商品を200円値上げすると1080円になりますが、1000円を超えると購買における心理的ハードルが一気に高くなりますし、値上げしたという印象が強くなります。
しかし、原価を考えるとどうしても1000円以上に値上げしなければならない場合は、「単品とセット価格を分ける」などの工夫をしましょう。
例えば、880円でサラダ、スープ付のメニューがあれば、それらを除いた単品価格として880円に設定し、セット価格を+200円と表記することでメニューへの表記で1000円以上の数字を記載する必要がなくなります。
特に注意すべき点は、「見た目の価格が変わらない」ようにすることです。メニューに1000円以上の商品がなかった場合は、この例のようにセット商品や「大盛」などのオプションで客単価を1000円以上に誘導する工夫をすると、値上げをなるべく感じさせずに値上げすることが可能です。
百の位の数字を変えない
飲食店の商品単価において多くの消費者の印象に残っているのは「百の位」です。それを知っているからこそ「599円」のような価格設定が多いのは飲食事業者にとっては常識かもしれません。
もし、「520円」のような商品があれば、「580円」などに値上げしてもよほどの常連以外の多くのお客様には気づかれない可能性がありますが、実際は10%の値上げになっているため、客単価としてはかなりの上昇が見込めます。
この方法は特に居酒屋など、一品ものを複数オーダーする飲食店において有効であると考えられます。
税抜金額も表示する
総額表示義務により、飲食店においても価格表示に必ず税込金額を表示しなければなりません。しかし、税抜金額も並べて表示したり、税込金額を小さく表示するのは違法ではありません。ちなみに国税庁によると口頭で案内する価格は義務の対象外だそうです。
飲食事業者に共通しているのは「1割増の価格を表示しなければならない」という不満でしょう。
少しでも価格を安く見せたいチェーン店などでは、大きく税抜金額を表示している例があります。消費者の意識には大きい金額や安い金額ほど印象に残りやすいため、この方法は単純ながらも効果が大きいと言えます。
例えば、それまでの総額表示価格を税抜として、小さく税込金額を付け加えることで客単価を一気に10%上昇させることが可能です。
まとめ:安易な値上げには注意
この記事では飲食店経営における値上げのリスクと、ばれにくい値上げの方法について紹介しました。
ただし、いくら分かりにくいと言っても、消費者にとって支払う金額が大きくなれば無意識のうちに「高いな」と思われてしまう場合が増えます。
そのため、まずは値上げが今本当に必要なのかどうかを考えることが重要です。